「私はマグロ船に乗せられたことがあります」
 

こう言うと、ほとんどの人は不思議そうな顔をして、
「借金があったんですか?」 と、小声で聞かれます。

 
しかし、私がマグロ船に乗せられていたのは、借金が理由ではありません。
 
私は大学を卒業したあと、民間企業の研究所に就職をしました。
 
 
そこで与えられた仕事が、
 
  『マグロなど、生魚が腐りにくくするための鮮度保持剤の開発』
 
でした。
 


この研究所は所長の無茶な命令が多かったため社員はやる気を落とし、


  ・ 一日中転職サイトを見ている人、
  ・ 何もかもあきらめ、一日中、寝ている人

 
などがいました。
 


「ここで働くと、みんな元気がなくっていく」ということで、本社からは
「ゾンビ製造工場」と呼ばれていた部署に配属されていたのです。
 

 

「私もいつかは先輩スタッフのように、無茶なことを言われるに違いない」と、
ビクビクと恐れる毎日を送っていたある日のこと、とうとう運命の時が
やってきました。

 


会議の席で、所長から突如、

 

 「お前がマグロの鮮度保持剤の開発を一気に進めるためには、
  マグロ船に乗ってマグロのすべてを見てこい!」

 
と命令されたのです。
 


マグロ船に乗っても実験条件が整わないので、

 
 「乗っても意味がないと思いますが・・・」
 
と恐る恐る反論したところ、
 


「乗らなかったら、お前の書類には二度とハンコを押さねぇからな!」

 
と問答無用でドスのきいた口調で一蹴されました。
 


かくして体重56キロと貧弱な体格でおまけに虚弱体質というマグロ船にまったく
向いていないにも関わらず、泣く泣くマグロ船送りになったのです。


当時、マグロ船にはいいイメージがまるでなく、「これで人生終わった……」
という悲壮感漂う気持ちで一杯でした。

 
 

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しかし実際にマグロ船に乗せられてみると想像は見事にはずれ、漁師たちは
常にニコニコと楽しそうに働き、お互い助け合いながら仕事をしていたのです。


船内は非常に狭く、しかも病院もコンビニもない極端に不便な環境です。

 

それだけに仲よくチームワークよく仕事をしないと、ケンカになったり、
血を出すようなケガや複雑骨折などの労災事故が頻繁に起きたりなど
マグロを捕るどころではなくなってしまうのです。


私が乗せられたタイプのマグロ船は、当時、日本に約500隻ありましたが、
そのなかでも毎年トップクラスの売上を誇る、漁業関係者からは

 
  「日本一の船」
 

と呼ばれていた船に乗船したこともあり、なおのこと
イキイキと働ける仕組みをつくりあげていたのです。


私はそれまで、「ゾンビ製造工場」と呼ばれるような職場で働いていたので、
「仕事はつまらなくて当然だ」と、冷めた仕事観を持っていたのですが、
楽しく仕事し、しかも成果を上げる漁師たちをそばで見ることで、
仕事観が180度変わったのです。

 
 

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極端なたとえですが一般の職場では、「使えない人材であれば
辞めてもらって新しいバイトを雇う」という安易な改善ができます。

 
しかし、それでは工夫はなく、人を育てる知恵も育ちません。
 
 
船長に「船員たちをやる気にさせてスゴイですね」と言うと、
 

「船やらは不便じゃけぇのぉ。『船にあるモノ』と『いるヒト』で何でもできねぇと、
 大漁どころか生きて帰ってこられねぇじぇねぇか。じゃから工夫するしかねぇけぇ」

 

と、ボサボサ頭で黒光りした海賊風の見た目からは考えられない、
名経営者のような広大な海のような安定感のある口調で答えてくれました。

 


若手の漁師たちは、自分たちを励まし、そしてプロに育ててくれる船長に強い
憧れを持っていましたが、当時の私も、そんな船長の元で働きたいと
思うようになりました。

 

しかし、私の場合、持病をいくつか抱えているような虚弱体質の体では、
とてもマグロ船の仕事は務まらず、残念ながらその夢は
諦めないといけませんでした。

 

体の弱い自分を恨みつつ、それでも諦め切れないまま、
日々悶々としていると、ひとつの事に気付いたのです。

 

私にとって、船長の仕事とは、『マグロを獲る事』ではなく、
『人を育てて自信を付けさせ、結果的に成果を上げさせる事』だと。

 

だから今、「私は漁師にはなれなかったけど、マグロ船式の人の育て方、
組織開発の方法を伝えていこう!」と、思うようになったのです。

 


  「売上げが上がらない」
  「部下(社員)が働かない」
  「職場にはストレスが蔓延している」

 

と悩む、企業に対して、不便だからこそ培われた、マグロ船の
『人』や『環境』を活かす知恵をお伝えできたらと思っています。

 
 
貴社においても、私の力がお役に立てれば、本当に嬉しく思います。
 
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました。
 
 
 

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